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札幌地方裁判所 平成元年(ワ)100号 判決

原告

秋﨑貞雄

荒川浩

伊藤正寿

岩本英勝

株式会社エムテイ土谷観光

右代表者代表取締役

土谷正光

原告

大貫富男

小山内弘二

小野ひろみ

加藤松夫

上坪正明

川端千三

岸秀俊

木元伸昭

久保富美夫

小門幹夫

小西章

佐藤美智子

竹腰三男

土谷正光

土井一恵

長屋優紀子

能戸久子

森秀太郎

柳田優

原告ら訴訟代理人弁護士

矢野修

野田信彦

被告

たかを観光株式会社

(旧商号高雄観光株式会社)

右代表者代表取締役

髙橋幸雄

右訴訟代理人弁護士

鈴木悦郎

橋本昭夫

米屋佳史

被告

中江武

右訴訟代理人弁護士

馬杉栄一

右訴訟復代理人弁護士

三木明

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告らは、各自、原告秋﨑貞雄、原告荒川浩、原告伊藤正寿、原告株式会社エムテイ土谷観光、原告小野ひろみ、原告上坪正明、原告川端千三、原告佐藤美智子、原告竹腰三男及び原告森秀太郎に対し、それぞれ金一二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二被告らは、各自、原告岩本英勝に対し、金二四〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三被告らは、各自、原告大貫富男、原告加藤松夫、原告岸秀俊及び原告能戸久子に対し、それぞれ金五二〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四被告らは、各自、原告小山内弘二、原告小西章、原告長屋優紀子及び原告柳田優に対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五被告らは、各自、原告木元伸昭に対し、金八七〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六被告らは、各自、原告土谷正光に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七被告中江武は、原告久保富美夫及び原告土井一恵に対し、それぞれ金一二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

八被告中江武は、原告小門幹夫に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告たかを観光株式会社が経営するゴルフクラブの会員権等の購入・販売をしていた富士ゴルフ株式会社及びその取締役である柳館宏明に金員・会員権を騙取されたとして、富士ゴルフの顧客であった原告らが、富士ゴルフが被告たかを観光の組織上の一部門であり、また、被告中江が宏明の使用者である等を理由に、被告らに対し、民法七一五条に基づき、損害賠償及び各原告に引渡すべき各ゴルフ会員権の引渡が不能となった富士ゴルフの破産宣告日の翌日である昭和六三年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

一争いのない事実及び証拠により認定できる事実

1  被告ら

被告たかを観光株式会社は、ゴルフ場の経営及び飲食店の経営等を目的とする会社であり、羊ヶ丘コース、真駒内コース及び滝野コースの三ゴルフ場につき、それぞれ、羊ヶ丘カントリークラブ、真駒内カントリークラブ、滝野カントリークラブ及び右三つのゴルフ場に共通のゴルフクラブとしてタカオゴルフクラブを経営・管理しており、被告中江は、被告たかを観光の取締役でタカオゴルフクラブの専務理事であったが、昭和六〇年一一月一一日、ゴルフ会員権の売買等を主たる目的とする株式会社ティジィシィを設立し、その代表取締役に就任した(争いがない)。

2  富士ゴルフ及び柳館宏明の不法行為

(一) 富士ゴルフは、昭和五八年一月一四日、資本金一〇〇万円で、ゴルフ会員権の売買、斡旋及びゴルフ会員権を担保とする貸金業等を目的として設立された会社であり、その代表取締役は柳館(現・竹岡)廣子、取締役は当時その夫であった柳館宏明であり、宏明は専務取締役と呼称されていた。宏明は、昭和六三年四月九日ころ、失踪し、富士ゴルフは、同月二一日、破産宣告を受けた(被告中江につき争いがない。甲3、乙イ3、証人竹岡及び弁論の全趣旨)。

(二) 不法行為の具体的内容

宏明は、昭和六二年一〇月二二日から昭和六三年四月一日までの間、富士ゴルフの運転資金等を獲得する目的で、多数の顧客を欺罔して、不正に金員等を取得した。その方法は、羊ヶ丘カントリークラブ、真駒内カントリークラブ、滝野カントリークラブ及びタカオゴルフクラブの各ゴルフ会員権(以下、右各会員権を総称して「本件各会員権」といい、各会員権をそれぞれ「羊ヶ丘会員権」「真駒内会員権」「滝野会員権」「タカオ会員権」という。)の名義変更手続きに三ヵ月前後の期間を要することを利用して、本件各会員権の購入を求める顧客につき、一個の会員権を二重、三重に販売するとか架空の会員権を販売するとかして、顧客から売買代金又は下取代金としてのゴルフ会員権を騙し取るというものであり、また、所持している本件各会員権の名義変更手続きを富士ゴルフに依頼した顧客につき、会員権証券を預かり保管中に勝手に右会員権を第三者に売却処分するというものであった。原告小門と同土谷を除く原告らは、富士ゴルフ及び宏明との間で、別紙一覧表記載のとおり、「契約年月日」欄記載の各年月日に「契約内容」欄記載の各契約を締結し、宏明に「売買代金額」欄記載の売買代金名下ないし「名義変更料」欄記載の名義変更料名下に「支払現金額」欄記載のとおり各支払い、また、「交付した会員権」欄記載の各ゴルフ会員権を交付し、又は、名義変更手続きの引受け名下に「交付した会員権」欄記載の各ゴルフ会員権を交付したが、右不法行為によって、同表1ないし16、18、19、21、22の原告らは売買契約により得べかりし各ゴルフ会員権を取得できず、あるいは、同表17、20の原告らは預けた各ゴルフ会員権を喪失した。それによって、同表1ないし3、5ないし12、14ないし22の原告らは、いずれも各会員権の時価相当額の損害を受けた。なお、原告らは、右各会員権の時価につき、タカオ会員権一二〇〇万円、滝野会員権五〇〇万円、真駒内会員権五二〇万円と各主張するが、原告らが本件口頭弁論終結時まで右ゴルフ会員権を保有していたとすれば、右時点の時価が原告ら主張の右価額をかなり下回っていることは当裁判所に顕著であるから、原告ら主張の価額をもって損害額といいうるためには、原告らが右主張の価額をもって右ゴルフ会員権を転売・処分したであろうとの特別の事情のあることが必要であるところ、その旨の主張も立証もない。したがって、各不法行為時点の各ゴルフ会員権の時価相当額をもって損害の基礎となる会員権の時価と定めるのが相当であり、その当時の各ゴルフ会員権の時価相当額は、乙イ第一号証と「売買代金額」欄記載の各不法行為における売買代金額を考え合わせると、「会員権の時価」欄記載の各金額と認めるのが相当である。原告岩本(同表4)と同木元(同表13)は、いずれも売買代金額及び名義変更料の一部につき株式会社大信販との間でクレジット契約を締結し、その後右契約に係る割賦代金の支払い義務を免れたので、右会員権の時価相当額から右支払いを免れた別紙一覧表「信販会社との契約額」欄記載の金額を差し引いた金額相当の損害を被った。なお、原告加藤(同表9)については、富士ゴルフ及び宏明が金員を騙取し会員権相当額の損害を与えたのは株式会社グッドラックの代表者中川良吉であるが、原告加藤は昭和六三年七月二八日、右中川に真駒内会員権を四〇〇万円相当として譲り渡し、これにより同人から富士ゴルフに対する債権の一切を譲り受けた。したがって、同原告らは、「損害額」欄記載の損害額相当の損害を被った(以上全体につき、甲3、甲7、乙イ1及び弁論の全趣旨、原告秋﨑につき甲24の1、2、原告荒川につき甲25、原告伊藤につき甲26の1、2、原告岩本につき甲27の1、2、原告エムテイ土谷観光につき甲28、原告大貫につき甲29、原告小山内につき甲11の1ないし3及び30の1、2、原告小野につき甲31の1ないし4、原告加藤につき甲20の1ないし4及び原告加藤、原告上坪につき甲32の1、2、原告川端につき甲23の1、2及び原告川端、原告岸につき甲33の1、2、原告木元につき甲22の1ないし4及び原告木元、原告久保につき甲34の2、原告小西につき甲36の1、2、原告佐藤につき甲37、原告竹腰につき甲38の1、2、原告土井につき甲40の1、2、原告長屋につき甲41の1、2、原告能戸につき甲21の1、2、5及び原告加藤、原告森につき甲42の1ないし3、原告柳田につき甲43)。

なお、原告小門は、富士ゴルフ及び宏明が、一時借用名下にゴルフ会員権を騙取することを企て、昭和六一年九月中旬ころ、同原告に対し、真実はゴルフ会員権を返還する意思も能力もないのに、会社の資金繰りが苦しいので金策のために同原告所有の真駒内会員権を一時貸してほしいと述べてその旨誤信させ右会員権を交付させてこれを騙取し、もって、同原告に右真駒内会員権時価相当額の損害を与えた旨主張し、原告小門は昭和六一年六月ころ滝野会員権を宏明に貸した旨供述をし、甲第三五号証にも同趣旨の記載があるが、原告小門は貸した後返還を請求したことはないとも供述するのであって、右原告小門の供述はにわかに採用しがたく、仮に貸したという事実があったとしても、昭和六一年当時、富士ゴルフ及び宏明において右ゴルフ会員権を返還する意思も能力もなかったことを伺わせる事情は見当たらず、富士ゴルフ及び宏明に右会員権騙取の意図があったとは認められないので、いずれにしても、原告小門の右主張は認められない。

また、原告土谷は、富士ゴルフ及び宏明が、ゴルフ会員権売買代金名下に金員を騙取することを企て、昭和六二年一〇月三〇日、同原告に対し、ゴルフ会員権を譲渡する意思も能力もないのにタカオ会員権を売買代金六七〇万円、名義変更料三〇万円で売り渡すと述べてその旨誤信させ同日現金七〇〇万円の支払いをさせてこれを騙取した旨主張するが、証拠(甲7、12の1ないし4、39及び証人竹岡)によれば、同原告が、昭和六二年一〇月三〇日、富士ゴルフから、小樽カントリー倶楽部のゴルフ会員権を買い、宏明は、同年一二月九日、同会員権を福島質店に三〇〇万円で担保借入したことが認められるが、同原告と富士ゴルフの右取引は、小樽カントリー倶楽部の会員権に関するものであって、同原告主張のタカオ会員権に関する宏明の不法行為は認められない。

よって、富士ゴルフ及び宏明は、原告ら(原告小門及び同土谷を除く。)に対し、右不法行為に基づき被った損害を賠償すべき責任がある(以下、右富士ゴルフ及び宏明の違法行為を「本件不法行為」ということがある。)。

二主たる争点

1  被告たかを観光の使用者責任の成否

(一) 原告の主張

(1) 使用者性

富士ゴルフは、本件各会員権の譲渡・譲受及び名義変更手続きについての業務に関する限り、被告たかを観光の組織上の一部門と評価すべきである。したがって、被告たかを観光は、右各業務の執行について、富士ゴルフ及び宏明を使用していた。

すなわち、被告たかを観光は、昭和六〇年一〇月ころ、富士ゴルフほか一社(伸共ゴルフ札幌)を本件各会員権の販売指定業者に指定したところ、指定業者が会員権を販売・仲介をする場合でなければ、入会が承認されず、ゴルフ会員権の譲渡が実質的にできないことを意味するから、一般の顧客は、本件各会員権を取得したいと思えば、指定業者から取得しなければならず、それ以外に手立てはなかった。被告たかを観光は、富士ゴルフを販売指定業者としその旨の名称を付させて対外的に公表することによって、本来、被告たかを観光の業務に属する名義変更に関する事務の大部分を富士ゴルフに独占的に取り扱うことを授権し、同時に、名義変更手続きを必然的に伴う会員権売買を富士ゴルフだけに取り扱わせ、もって右各ゴルフ会員権の販売及び名義変更に関する事業を独占的に取り扱わせた。また、名義変更手続きにおける面接調査の実施には、会員権証券原本の提出及び譲渡される会員権の会員権名義・会員権番号の特定が必要であるが、富士ゴルフの関与する名義変更手続きにおける面接調査の実施においては、これらのことを要求せず、特殊な便宜を富士ゴルフに提供して癒着し、富士ゴルフを支配していたものである。

したがって、被告たかを観光と富士ゴルフは、指定業者の指定により特定の業務提携・業務委託関係を形成し、富士ゴルフは、それにより被告たかを観光の事業の一部を受託して、名義変更を求める顧客とは取引相手方としてこれに対向する関係にあったもので、富士ゴルフは被告たかを観光の組織上の一部門と評価しうるから、被告たかを観光と富士ゴルフ及び宏明との間には実質的指揮監督関係・支配従属関係が形成されていた。

(2) 業務執行性

本件各会員権の譲渡に伴う名義変更手続きは、形式的には入会申込者の入会手続きであっても、法律的にはゴルフ場経営会社である被告たかを観光が入会申込者の施設利用契約上の地位承継を承諾する事務であり、経済実体的には、被告たかを観光の経常的収益を目的とする事業活動の一環である。そして、ゴルフ会員権の譲渡が認められるのは、会社と会員との施設利用契約における譲渡の自由を定めた契約条件に基づくものであり、また、当事者間で合意しても会社の承認がない限り施設利用上の地位を承継することはできないので、ゴルフ会員権の譲渡・譲受行為は、当事者及び会社の間において行われる三面関係の法律行為である。したがって、名義変更手続き及びこれに必然的に伴い密接不可分の関係にある会員権売買に関する業務は、本来、被告たかを観光の業務である。

そして、被告たかを観光は、富士ゴルフを指定業者に指定して、自己の固定顧客である会員の地位の譲渡に関する事業を日常不断に取り扱わせ、名義変更料を徴収させて、これを取得して収益とし、他方、富士ゴルフも、本件各会員権の販売・名義変更手続きにより多額の販売利益を得、人的にも被告たかを観光の会員権担当者と密接に連絡・連携していたのであるから、被告たかを観光と富士ゴルフとは、業務執行面では密接な連携関係にあり、経済的には相互依存の関係にあったといいうる。

そうだとすると、富士ゴルフは、被告たかを観光の名義変更請求を受ける事務、入会申込必要書類を提出させ受領する事務及び名義変更料の請求・徴収・受領の事務をそれぞれ代行していたと評価すべきである。

したがって、富士ゴルフの行った本件各会員権の名義変更手続きに関する業務及びこれに必然的に伴い密接不可分の関係にある本件各会員権売買に関する業務は、被告たかを観光の事業の執行につき行われた行為と解すべきである。

(二) 被告たかを観光の主張

(1) 使用者性の不存在

富士ゴルフと被告たかを観光は、別法人格を有する別個独立の会社であり、両者間には、人的・物的・資本的支配従属関係は存在しない。

また、会員と第三者間の会員権売買は自由とされ、名義変更手続きを直接被告たかを観光が受け付けていたなどからして、被告たかを観光と富士ゴルフとは、法律上特定の業務提携関係又は業務委託関係を形成したことはなく、富士ゴルフは顧客の事務代行者として名義変更手続きを行っていたにすぎない。

したがって、被告たかを観光と富士ゴルフとの間には、指示または指揮監督する関係はない。

(2) 事業執行性の不存在

ゴルフ会員権の譲渡・譲受は、会員権の譲渡人と譲受人の法律行為であって、当該ゴルフクラブを経営する会社の業務執行であるとはいえない。

また、名義変更手続きのうち、入会申込者の名義変更請求並びに入会申込者の入会申込必要書類及び入会保証金預託証券の提出は、入会申込者の事務であり、富士ゴルフは本来入会申込者が行うべき右事務をその者の依頼に基づき代行して行っていたにすぎない。

したがって、富士ゴルフの本件各会員権の売買及び名義変更手続きは、被告たかを観光の業務の一部門として行われたものでなく、被告たかを観光の業務の執行につき行われた行為とはいえない。

2  被告中江の使用者責任の成否

(一) 原告の主張

(1) 使用者性

宏明は、富士ゴルフの行っていたゴルフ会員権売買等の業務の中で本件各会員権売買の業務を専門に担当していたところ、被告中江は、本件各会員権取引の業務に関する限り、宏明を直接指揮監督して富士ゴルフ名義で右業務を執行していたと評価しうるから、宏明の使用者であった。

ア(業務関係)

被告中江は、宏明を指揮命令して、富士ゴルフ名義による本件各会員権取引の業務に従事させていた。被告中江は、宏明に業務日報を提出させ、宏明が富士ゴルフ名義で行う本件各会員権の売値・買値の決定を行ない、また、富士ゴルフ名義で取得した会員権証券の保管をしていた。

イ(資金関係)

被告中江は、宏明らが富士ゴルフ名義でゴルフ会員権を買い受ける際の資金を出していたし、富士ゴルフ名義で行う広告の宣伝費、ダイレクトメールの印刷代等の費用も負担していた。

また、宏明がゴルフ会員権を売却して取得した売買代金は、宏明から直ちに被告中江に入金されていた。

ウ(収益分配関係)

被告中江は、当初宏明にゴルフ会員権の売買一件当たり一万円の手数料を与えていたが、一件あたり一万円というのはゴルフ会員権業者の手数料としては破格に安く、また、被告中江は、宏明がゴルフ会員権を買い入れたときは顧客の領収書の写しを提出させて販売価格を報告するよう求め、提出された領収書は被告中江ないしその妻が点検していたので、宏明は被告中江から独立した立場で独自に利益を上げることはできなかった。その後、配分率が折半になってもいわば従業員の歩合給の割合が高まったのに等しく、被告中江の支配のもと宏明が業務に従事していた実体に変わりなかった。

エ(人事管理関係)

被告中江は、宏明が販売価格を偽って報告したことに関し「お前もうやめれ」と言い解雇を示唆した。

また、被告中江は、原告小門を富士ゴルフの営業部長として採用し、給料をティジィシィ名の封筒で渡すとともに、「富士ゴルフ株式会社営業部長小門幹夫」という名刺を与え、宏明の富士ゴルフ名義による本件各会員権取引の業務に従事させていた。

オ(まとめ)

以上からすれば、被告中江は、業務上の命令をし、業務報告させ、資金を提供し、労働者を雇用し、賃金に代わる利益配分をし、時には解雇を示唆するなどして、宏明を支配従属させていたものであり、宏明の使用者であった。

(2) 業務執行性

宏明と原告小門が従事していた本件各会員権の取引業務は、被告中江個人の事業の執行につき行った行為であった。

本件各会員権取引には富士ゴルフ及びティジィシィが当事者として関与しているが、富士ゴルフ及びティジィシィは、会社と会社との間の取引関係のように装うための道具立てでしかない。また、ティジィシィの実体は、被告中江の個人事業と同一視されるべきものであり、その法人格は形骸化しており、ティジィシィ名義で取引することは、対外的な体裁を調え経理処理の受け皿とするための便法でしかない。

(二) 被告中江の主張

(1)(業務の独立性)

宏明は、富士ゴルフの業務として、ティジィシィとの本件各会員権の取引以外にゴルフ会員権担保金融と本件各会員権以外の会員権販売を行っており、後者の割合が富士ゴルフの事業の半分以上であったから、被告中江ないしその経営するティジィシィに経済的に従属しておらず、また、従属した内容の事業計画を立てたこともなく、さらに、同被告らから何らのノルマも課せられていない。

(2)(業務遂行形態における独立性)

宏明は、富士ゴルフの業務として、ティジィシィとの取引関係以外にも多数の業務を行い、ティジィシィ関係だけに労働時間を使用しておらず、また、被告中江ないしティジィシィから、業務遂行に関し何らかの時間的・場所的拘束を受けていないし、会員権の仕入れや売却の相手方について何らの制約も受けず、個々の仕入れ、売却過程について同被告らから直接の指揮監督も受けていない。なお、被告中江は、宏明に仕入れの指値を示したことがあるが、これは、商取引上のものにすぎず、これをもって指揮・監督があったとはいえない。そして、富士ゴルフには、被告中江が定めた服務規律はない。

宏明ないし富士ゴルフは、会員権を売却した際、紹介者に販売利益から手数料を支払って独自に販路を拡大しており、全くの普通の取引関係と同様の取引をしていた。富士ゴルフは、ティジィシィの仕入指値より低額で顧客から本件各会員権を購入しこれをティジィシィに売却し、その差額を利益として得て、また、ティジィシィから本件各会員権を購入して顧客に販売し、ティジィシィからの富士ゴルフへの卸値と顧客への売却値との差を利益として得ていた。

(3)(経費の支出及び報酬)

富士ゴルフは、事務器具を自らの責任で取り揃え、従業員を雇うなど、経費の一切を負担していた。

ティジィシィが負担していた富士ゴルフの費用は、広告費の一部だけであり、取引先である卸元が広告費の一部を負担することは多々あることである。また、ティジィシィが原告小門に給料を支払っていたのは、昭和六二年六月までである。

宏明ないし富士ゴルフが被告中江ないしティジィシィから固定的に支払を受けていたのは、昭和六一年までであり、それも一〇万円と少額であり、それ以後は一切報酬は与えられていない。

(4)(業務遂行における外形)

外形上、宏明が被告中江ないしティジィシィの従業員と見られる形で業務遂行したことは一切ない。

(5)(まとめ)

したがって、宏明ないし富士ゴルフと被告中江ないしティジィシィとの取引は、各々が各々の危険負担で業務を行っていたのであって、富士ゴルフとティジィシィとは、問屋と小売業者の関係にあったものである。

以上により、被告中江ないしティジィシィと宏明との間には、支配従属・指揮監督の関係はなく、被告中江ないしティジィシィは、宏明の使用者ではなかった。

第三争点に対する判断

一被告たかを観光の使用者性

1  証拠(甲9、甲13、甲15、証人竹岡、証人濱田、原告川端及び原告加藤)によれば、以下の事実が認められる。

被告たかを観光は、昭和六〇年一〇月ころ、富士ゴルフ及び伸共ゴルフ札幌を本件各会員権の取扱い指定業者に指定し、それ以外の会員権業者については名義変更手続きを受け付けない旨通告した。被告たかを観光の名義変更の係員である濱田が同被告に入社した昭和六一年三月当時、前任者から、取扱業者が決まっていると聞かされ、その後、会員権を買いたいという問い合わせに対しては、伸共ゴルフ札幌と富士ゴルフで売っていると返答していたが、同被告は、名義変更を希望する個人が受付にくる場合は受け付けをしていたし、特に取扱業者でないということで受け付けを拒絶することはなかった。

本件各会員権の名義変更手続きは、被告たかを観光において、①譲渡人の退会届、印鑑証明書及び会員証カード(なければ紛失届)並びに譲受人である入会申込者の名義変更請求書・会員権証券譲渡承認請求書・入会申込書(甲13)、経歴書、戸籍抄本、推薦書及び写真、さらに会員権証券(原券)の提出を受け、受付簿に記入する、②譲受人の理事の面接の手配をし、③資格審査委員会での審査を経て、④各ゴルフ場ないし真駒内ゴルフ場のスポーツセンター前に譲受人の写真を名前と推薦者名を附して掲示し、他の会員に異議を申し出る機会を与え、さらに⑤オーナーの決裁を経た後、⑥譲受人を会員台帳に登載し、会員権証券に譲受人の氏名を裏書して譲受人に郵送して終了するのであるが、手続上、証券の原券がなくても⑤のオーナー決裁までの手続きをすることは可能であり、実際④の掲示まで原券がなく取り扱ったことがあった。一方、富士ゴルフ等のゴルフ会員権業者は、右譲渡人及び譲受人(入会申込者)に代わって、被告たかを観光に、右譲渡人及び譲受人(入会申込者)の提出すべき書類を提出し、また、入会申込者から預かった名義変更料を支払っていた。

2  前記認定事実によると、被告たかを観光は、昭和六〇年一〇月から昭和六三年二月一七日までの間、富士ゴルフ及び伸共ゴルフ札幌を名義変更手続きに関する指定業者として扱い、両者が独占的に名義変更手続を取り扱うことを許容していたといいうるが、右指定業者を経ずに直接名義変更をすることもあり、必ずしも厳密に独占的取扱いとなっていたわけでないうえ、富士ゴルフないし宏明が関与した名義変更手続きの行為は、譲渡人及び譲受人(入会申込者)の事務を代行したものに他ならず、被告たかを観光の名義変更手続きそのものを代行したということはできず、また、本件各会員権の売買は譲渡人・譲受人当事者間の売買であり、被告たかを観光が関わるのは名義変更手続きに関してだけと考えられるところ、原告らが主張するような被告たかを観光の名義変更請求を受ける事務、入会申込必要書類を受領する事務及び名義変更料の請求・受領の事務は被告たかを観光が自ら行っていたというべく、富士ゴルフがそれらの事務を代行していたとは認められない。

したがって、被告たかを観光が、本件各会員権の譲渡・譲受及び名義変更手続の業務に関し富士ゴルフを組織上の一部門としていたということはできず、そうすると、その事業につき富士ゴルフないし宏明を指揮監督をして使用していたということはできない。

よって、その余の点につき、判断するまでもなく、原告らの被告たかを観光に対する請求は認められない。

二被告中江の使用者性

1  前記争いのない事実及び証拠により認定できる事実、前記認定事実並びに証拠(甲1ないし7、10、16の2ないし30、17の1ないし4、18、44、乙イ2ないし5、8ないし14、15の1、2、証人竹岡、証人濱田、原告加藤、原告小門及び被告中江)によれば、以下の事実が認められる。

富士ゴルフは、昭和五八年一月一四日、柳館(現・竹岡)廣子が設立資金を出資し資本金一〇〇万円でゴルフ会員権の売買・斡旋及びゴルフ会員権を担保とする貸金業等を目的として設立され、宏明が広告業の事務所としてマルホ商事(被告中江の妻が代表取締役)から賃借していたマルホビル(札幌市中央区北二条西二丁目四番地所在)の七階の一室に本店事務所を置いた。株式は、廣子及び宏明が各三割、残りは廣子及び宏明の親族が保有し、役員には代表取締役として廣子が、取締役として宏明のほか、廣子及び宏明の親族が就任し、宏明は、専務取締役と呼称されていた。廣子が代表取締役になったのは、同人が全道アマチュア女子選手権に出場し、ゴルフ業界で知名度が高かったからである。富士ゴルフの業務は、廣子、宏明及び従業員一名で行われていた。富士ゴルフは、昭和六〇年一月ころ、北海道週刊ゴルフ新聞に北海道ゴルフ会員権取引業協会会員として富士ゴルフ専務取締役柳館宏明の名で年賀広告を出した。

被告中江は、アマ・ゴルファーとして活躍し、昭和五四年ころからやはりアマ・ゴルファーとして活躍していた廣子と知己があり、富士ゴルフの株主にも役員にもならなかったが、会社設立以来アドバイスを与え、富士ゴルフは、設立後、宏明を中心に、被告中江のアドバイスにより道相銀ファクターから融資を受け、ゴルフ会員権を担保とした金員貸付業務を主に行っていた。被告中江は、被告たかを観光の取締役であるとともに、タカオゴルフクラブの専務理事という地位があり、昭和六〇年一〇月末ころ、ゴルフ会員権の相場が上昇すると考え、その売買業務をすることを想定して、株式会社ティジィシィを事実上設立し(同年一一月一一日設立登記・本店前記マルホビル)、宏明にゴルフ会員権取引を勧め、富士ゴルフは、被告たかを観光から本件各会員権の取扱い指定業者に指定され、昭和六〇年一〇月三一日、ティジィシィとの間で、ティジィシィから富士ゴルフに対し窓口業務として月額五万円の家賃、取扱手数料として最低保証額月額五万円及び取り扱い物件一件当り金一万円を支払うことを約した協定を結び、本件各会員権取引を始めるようになった。被告中江は、被告たかを観光の取締役でタカオゴルフクラブの専務理事という立場上、直接、顧客と会員権売買を行うことがはばかれる面があって、富士ゴルフなどの会員権業者を介して売買取引を行おうと考え、また、当初、在庫をもつ必要があった会員権の仕入れに専念し、これに対応して、宏明が富士ゴルフとして行った本件各会員権の取引も、当初は買い入れが中心であって、宏明は、被告中江が主にマルホ商事から借入れた購入資金で、本件各会員権を買い入れてティジィシィに売却し、取得した会員権証券を被告中江に渡して、被告中江がこれを自己の事務所で保管した。被告中江は、宏明から、昭和六〇年一一月八日から昭和六一年一月九日まで、ノートに記載したその日の業務報告を受けて、買い入れの決裁をし、買入価格を決めたり、宏明に顧客の領収書の写しの提出を要求したが、その後、右のような報告書の提出を受けなくなった。また、被告中江は、原告小門にゴルフ会員権の売買に携わることを勧め、昭和六一年三月に原告小門を雇い入れたうえ、富士ゴルフの営業部長という名称の名刺を与え、富士ゴルフの手伝いをさせた。富士ゴルフは、昭和六一年四月ころから、顧客から本件各会員権を仕入れてティジィシィに売却し会員権を引き渡す業務だけでなく、ティジィシィが保管している本件各会員権を顧客に売却する業務を行うようになった。そのころ、宏明は、富士ゴルフの営業方針という文書を作成したが、同文書中には、仕入れ・販売をともに積極的に展開することや、原告小門が販売に専念し、ゴルフ場やゴルフ練習場、スポーツ・ショップなどで積極的に営業することのほかに、原告小門の販売に関し販売価格をティジィシィに連絡して被告中江に確認するなどの記載があり、また、ティジィシィの下に富士ゴルフと原告小門が配置される組織図が記載され、被告中江はこれにサインして右方針を了承した。同月後の取引において、買い入れは、前同様、被告中江が調達した資金により行われ直ちにティジィシィに売却されて、会員権証券が被告中江の事務所に渡され保管された。売却については、富士ゴルフがティジィシィから購入すると被告中江の事務所から富士ゴルフに会員権証券が渡され、販売価格は、宏明が時の相場に従って定め、売却代金のうち、ティジィシィから購入価格相当額は被告中江に売却後直ちに渡され、下取りに係る会員権証券も直ちに被告中江に渡された。原告小門は、被告中江から、ティジィシィの封筒で被告中江の妻を通じ昭和六一年三月から同年一二月まで月一五万円、昭和六二年一月から同年六月まで月五万円の支払いを受けたが、その後ティジィシィから給料の支払いを受けなくなり、また、ティジィシィからの給料とは別に、富士ゴルフから会員権売却の斡旋につき手数料を貰い、昭和六一年五月に一件四万円、同年六月に三件合計一八万円、同年七月に二件合計一一万円、同年八月に六件合計二二万円の手数料を得、結局、富士ゴルフが破産宣告を受けるまで、三〇件位の購入を斡旋し富士ゴルフに五〇〇ないし六〇〇万円の販売利益をもたらして総額二〇〇万円くらいの手数料を得た。富士ゴルフは、他にも会員権販売の斡旋を依頼し、顧客を開拓した斡旋者に手数料を支払っていた。被告中江は、昭和六一年五月ころ、宏明が実際の販売価格を偽って報告したことで宏明に仕事をやめろと叱責し宏明が謝罪したことがあった。

昭和六一年夏ころから、廣子は自己が中心となってゴルフ会員権を担保とした金員貸付業務を継続するとともに、本件各会員権以外のゴルフ会員権の取引を開始し、銀行から融資を受け、相場に従い、自ら買取価格及び販売価格を決めてゴルフ会員権の買い取り・販売の取引をした。

被告中江は、昭和六〇年一〇月以降昭和六一年末まで、前記ティジィシィと富士ゴルフとの協定書に基づく家賃の負担並びに取扱手数料を支払い(昭和六〇年一〇月三一日、取扱手数料として六件六万円を、同年一一月二八日、取扱手数料七件七万円を、同年一二月二六日、取扱手数料九件九万円及び月契約料五万円を、昭和六一年一月二九日、取扱手数料二件二万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年二月、取扱手数料一三件一三万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年三月、取扱手数料一五件一五万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年四月、取扱手数料一一件一一万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年五月、取扱手数料一五件一五万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年六月、取扱手数料一一件一一万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年七月三〇日、取扱手数料二〇件二〇万円、月契約料五万円及び月家賃負担分五万円を、同年八月二九日、取扱手数料一二件一二万円を、同年九月、取扱手数料一〇件一〇万円及び月契約料・月家賃負担分計一〇万円、同年一〇月、取扱手数料五件五万円及び月契約料・月家賃負担分計一〇万円、同年一一月、取扱手数料三件三万円及び月契約料・月家賃負担分計一〇万円を、同年一二月、取扱手数料四件四万円及び月契約料・月家賃負担分計一〇万円を各支払った。)、ティジィシィ名義で一部経費を負担し(昭和六〇年一一月末、道新スポーツ掲載広告料五万円、昭和六一年二月一日、道新スポーツ掲載広告料一〇万円、同年二月二七日、名刺印刷代四〇〇〇円、同年五月末、葉書印刷代三万五〇〇〇円、同年八月一日、道新スポーツ掲載広告料一〇万円、日刊スポーツ掲載広告料一五万円、昭和六二年七月一日、日刊スポーツ広告代金二五万円、同年八月一日、広告代金二五万円、同年九月三日、日刊スポーツ広告代金二五万円、同月三〇日、新聞広告代二五万円、同年一一月一日、新聞広告代二五万円、同年一二月一日、新聞広告代二五万円、昭和六三年一月五日、広告代二五万円、また、マルホ観光名義で同年三月一日、広告代二五万円、同年四月一日、広告代二五万円を支払った。)、富士ゴルフは、ティジィシィからの右協定に基づく手数料の支払いを受けるほか、本件各会員権の売却による売却代金と被告中江に支払う代金との差額を利益として取得したが、その金額は、昭和六一年四月、四一万円、同年五月、四二万五〇〇〇円、同年六月、五七万円、同年七月、六一万円、同年八月、三二万円、同年九月、三三万円、同年一〇月、七七万円、同年一一月、三〇万円、同年一二月、三五万円であり、その後も同様に昭和六二年七月ころまで利益を得ていたが、同年八月ころから損失を生じるようになった。被告中江がティジィシィとして、富士ゴルフから買い入れた後富士ゴルフに売却して得た差額利益の状況も右と同様であった。富士ゴルフの業務は、前記のとおり、会員権を担保とする貸付、会員権取引等であり、その売上高は、昭和六〇年度一〇二四万円、昭和六一年度一五六四万円、昭和六二年度三五四一万円で、本件会員権売買の占める割合は少なからずあった。

伸共ゴルフ札幌と富士ゴルフとは、昭和六二年一月二一日、被告中江を立会人として、タカオゴルフクラブ関係の会員権の購入は富士ゴルフの、販売は伸共ゴルフ札幌の専業とする旨の協定を結んだが、まもなくこれを解消した。その後、会員権相場が上昇傾向となり、被告中江は、仕入価格が高くなった結果、取引妙味がなくなってきたと考えるようになった。被告中江は、昭和六二年二月二八日、被告たかを観光の取締役を退任し、タカオゴルフクラブの専務理事も、同年一一月ころ、実質的に辞め(昭和六三年二月二一日の理事会で正式に退任)、宏明は、昭和六二年一一月二五日、大信販との間で、割賦販売に関する加盟店契約を締結し、顧客の売買代金につき分割払いによる代金支払いを可能にした。ティジィシィは、昭和六二年一二月一日マルホ観光開発株式会社と商号を変更し、昭和六三年春ころからゴルフ会員権の販売取引には関わらなくなり、ゴルフ場経営に専念した。被告たかを観光は、本件各会員権の取扱いを富士ゴルフ・伸共ゴルフ札幌としていたその制限を外して取扱いを自由とし、このころ、訴外オリエントゴルフ株式会社が本件各会員権を高値で仕入れるようになった。そして、宏明は、前記のとおり、昭和六二年一〇月二二日から昭和六三年四月一日まで本件不法行為を行い、昭和六三年四月九日ころ、失踪し、廣子は、富士ゴルフにつき同月二〇日、破産を申し立て、富士ゴルフは、同月二一日、破産宣告を受けた。

2  前記認定事実によれば、富士ゴルフの経営は、被告中江の支援・助言を得ている面があり、また、宏明が直接取り扱った本件各会員権売買に関しては、被告中江と密着した形で運営されていたことが窺えるのであるが、富士ゴルフ自体の経営は独立にされていたということができ、また、本件各会員権の売買に関しても宏明自体の裁量判断で決定されていた事項のあることも窺えるのであって、前記認定事実から被告中江と宏明との間に民法七一五条所定の使用関係を是認するだけの支配従属関係ないし指揮監督関係があったとまでいうことはできない。そして、業務報告ノートの提出が昭和六一年一月まで、取扱手数料の支払いが同年末まで、ティジィシィから原告小門への給料の支払いが同年末まで、ティジィシィから原告小門への給料の支払いが昭和六二年六月までとなっていることなどからすると、宏明と被告中江の密着度が薄れていったとも考えられるのであって、少なくとも、本件不法行為があった昭和六二年一〇月二二日から昭和六三年四月一日までの間の指揮監督関係については、これを肯認するに足りる事情を認めうる証拠が十分でなく、特に、被告中江が被告たかを観光の取締役を退任し、タカオゴルフクラブの専務理事を辞め、ティジィシィがマルホ観光開発に商号変更し、宏明が大信販と加盟店契約を締結した前後のころには、被告中江の本件各会員権売買取引の頻度は少なくなり、宏明との関係も希薄となっていた可能性が考えられるのであって、本件不法行為は時期的にそのころからのものであるから、本件不法行為当時、被告中江と宏明との間に民法七一五条所定の使用関係があったとはいい難い。

よって、その余の点につき、判断するまでもなく、原告らの被告中江に対する請求は認められない。

第四結論

以上のとおり、本件請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官若林諒 裁判官遠山廣直 裁判官河合芳光)

別紙

一覧表

(単位 万円)

番号

原告名

契約

年月日

契約内容

売買

代金額

名義

変更料

支払

現金額

交付した会員権

信販会社

との契約額

会員権の

時価

損害額

会員権

の種類

評価額

1

秋﨑貞雄

62.11.11

タカオの買入れ

600

30

630

650

650

2

荒川浩

62.11.26

タカオの買入れ

620

30

650

650

650

3

伊藤正寿

63.2.23

タカオの買入れ

670

30

400

滝野 1通

300

650

650

4

岩本英勝

63.3.18

滝野の買入れ

330

30

100

260

290

30

5

(株)

エムティ土谷観光

62.10.30

タカオの買入れ

650

30

680

650

650

6

大貫富男

63.3.18

真駒内の買入れ

合計 400

400

330

330

7

小山内弘二

62.12.10

滝野の買入れ

270

30

300

290

290

8

小野ひろみ

62.10.22

タカオの買入れ

合計 600

200

滝野 2通

400

650

650

9

加藤松夫

63.2.24

真駒内の買入れ

370

30

400

330

330

10

上坪正明

63.2.16

タカオの買入れ

650

30

680

650

650

11

川端千三

63.1.22

タカオの買入れ

650

30

30

月寒 1通

650

650

650

12

岸秀俊

63.4.1

真駒内の買入れ

390

30

420

330

330

13

木元伸昭

63.3.15

タカオの買入れ

合計 780

100

真駒内 1通

350

330

650

320

14

久保富美夫

62.11.26

タカオの買入れ

合計 630

630

650

650

15

小西章

63.3.22

滝野の買入れ

340

30

370

290

290

16

佐藤美智子

63.12.11

タカオの買入れ

640

30

670

650

650

17

竹腰三男

63.3初め

タカオの名義変更

30

30

タカオ 1通

720

650

650

18

土井一恵

63.3.4

タカオの買入れ

720

30

750

650

650

19

長屋優紀子

63.2.12

滝野の買入れ

合計325

325

290

290

20

能戸久子

63.3.22

真駒内の名義変更

30

30

真駒内 1通

350

330

330

21

森秀太郎

62.12.28

タカオの買入れ

630

30

420

羊ケ丘 1通

240

650

650

22

柳田優

63.3.22

滝野の買入れ

330

30

360

290

290

注 タカオ=タカオゴルフクラブ会員権、羊ケ丘=羊ケ丘カントリークラブ会員権、真駒内=真駒内カントリークラブ会員権、滝野=滝野カントリークラブ会員権、月寒=月寒ゴルフクラブ会員権

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